Research はじめに



第一原理計算はどのように役に立つのか?


 星の軌道や人工衛星軌道の計算のようにはうまく行きませんが、第一原理電子状態計算は物性物理のいろいろなところで大いに役立っています。
 まず、最近は人工的に原子を配列させて自然界には存在しない物質を合成するようになりましたが、そういった新物質の物性予測、さらにはどのような原子をどのように配列させたらどのような物性をもつ物質がつくれるかといった物質設計に力を発揮するようになってきています。
 また、超高圧といった極限環境では原子の配列が常圧の場合とは大きく異なり、新しい物性を示すようになりますが、そういった新物性の予測にも貢献するようになっています。とくに、超高圧といった極限条件下では得られる実験情報も少なく、第一原理計算による情報が実験を相補することになります。


第一原理電子状態計算とは?


 固体の性質を決めるのに最も重要な働きをしているのは電子です。すなわち、固体の中で電子がどのような運動をしているかによって固体の性質が決定されます。ただし、電子の運動という場合、その運動は古典力学ではなく量子力学によって支配されており運動というよりは状態という言葉が使われます。量子力学的に電子がどのような状態をとるかによって、固体の性質が違ってくるわけです。この、固体の中の電子状態は、固体を構成する原子の種類やその配列の仕方によって異なった電子状態をとることになり多様な物性が発現します。
 第一原理的に電子状態を計算するということは、構成原子の種類とその配列を与えるだけで、量子力学的に固体中の電子の状態を求めることをいいます。もちろん厳密な計算することは不可能で、近似方法が採用されており鈴木研究室で行っている第一原理計算では、局所密度汎関数近似が多く用いられています。なお、第一原理計算による電子状態の計算は大変で、コンピュータの力を借りて初めて可能となります。


量子スピン系とは?


 電子は、相対論的な量子力学で初めて理解される属性として ”スピン” をもっています。このスピンは古典的に例えて言えば、小さな磁石と考えることができます。量子力学の枠組みで初めて理解されるので、量子スピンともよびますが、電子のスピン間には交換相互作用という量子力学特有の相互作用が働き、鉄やコバルトに磁石の性質を与える起源ともなっています。なお、量子スピンが1次元や2次元に配列した低次元量子スピン系あるいはスピンがペアを形成して配列した量子スピンペア系では、古典的には考えられない新奇な現象が発現されることが数多くあります。


厳密対角化、有効場近似とは?


 非常に複雑な系になると第一原理計算を行うことが困難になるのでモデルをつくって考えることがあります。また物理的な理解を深める場合にも、本質を突いたモデルを構築して議論する場合もあります。その場合、モデルによっては、量子力学的な電子状態を厳密に求めることが可能な場合もあります(厳密対角化)。また、電子間の相互作用は一般には厳密に取り扱うことが難しく電子同士の相互作用を実効的な外場(有効場近似)として取り扱うこともあります。